涙の彼方に笑うこと・膨らむココロ・ハートアート倶楽部を通じて

7月28日土曜日、身体障害者の入所施設オークスの一室は、何かが始まるむくむくとした予感に包まれていました。

 

重度の身体障害やダウン症等、様々な障害を持った子どもたち、それを囲むお母さん、学生たちの中には、わくわくとした高揚と熱気が膨らんでいます。

 

アサヒ薬局をアートで飾ってくださるハートアート倶楽部は、金立特別支援学校卒業生の保護者を中心とした障害者とその保護者の方のアート倶楽部です。

今日は、その月に一度の活動日でした。

 

私がここに来た理由、それは、涙の彼方にあるものを見るためでした。

 

 

アサヒ薬局には、様々な障害と付き合い始めの若いお母さんたちが沢山いらっしゃいます。

 

我が子の障害を受け入れる葛藤や、周囲との違和、負担の大きい育児など、毎日の苦しみの中で、悩み、傷ついている若いお母さんたちが、涙し、鬱になったするのを沢山見てきました。

 

障害者の家族を持つ身として、その葛藤も苦しみも深く分かる。

だから、何も役には立たない、けれど、せめて、彼女たちと一緒に歩いていこう。

少しでも明るい未来に繋げてゆこう。

そう思って、コミュニティ活動を始めたものの、辛い涙を見ていると、その先に笑顔が待っているのか、

不安になることがありました。

 

でも、そんな中、出会ったハートアート倶楽部のお母さんたちの、美しい笑顔。

 

その子どもたちが描くアートの明るさ。

 

光に満ちた力強さ。

 

その理由を知ることができたら、あの悩み、苦しんでいるお母さんたちに、何か希望を伝えることができるのではないだろうか。

そんな想いで、今回、ハートアート倶楽部に参加することにしたのです。

始まりの挨拶の後には、キャンバス、絵筆の他、ローラーやスタンプ、スポンジなど、それぞれの障害に合わせた画材たちが配られてゆきます。

 

 

すると、それらを手にした子どもたちの表情が、みるみると真剣なものになってゆくのです。

 

ちゃんと、芸術家の顔をしているのです。

絵筆を握ることはできない子どもたちは、クリップで、絵筆を固定し、ゆっくりとゆっくりと真剣に絵具を混ぜてゆきます。

ほんの少しの動作が、とても大きな疲労になるので、少し描いては、休み、しばらくするとまた手を動かされます。

「綺麗だね」

「うん、綺麗だね」

「これは何?」

「これは鳥なの。」

「ああ、本当だ、夕暮れを飛ぶ鳥みたいだね。ああ、これは本当に鳥だ。」

「綺麗な色でしょう。」

色んな色の混じったそれは、悲しくも綺麗な広い夕暮れの色で、

何か老成したものを感じる彼女の瞳には、ちゃんと鳥が宿っています。

それから、こちらでは、16歳と17歳の二人組が本当に真剣に絵を描いています。

この二人、親切でジェントルマンで、ものすごく素敵な二人組なのです。

この島は、誰のものでもない、『無人島』というところに、10代の彼の優しい自由を感じます。

月の光の温かい親しみ、鬱蒼とした茂みの感じ、山間の青い稜線、彼の優しさがとても詰まった絵だなあと感じました。

そして、彼が愛している作家の画集を見せていただきました。

生き物が沢山いて、温かくて、懐かしい優しさに満ちた穏やかな絵ばかり。

ああ、彼の心の中も、こんな風なんだなあと、しみじみと、温かな気持ちになりました。

そして、こちらの少年は、色使いがすごいのです。色彩の魔術師と呼ばれているだけあって、

彼が描く絵はどれも、アーティストの色彩です。綺麗で、でも新しい、ソフトな色。

彼が描いたという、このTシャツを見て、納得、、!

ピカソのキュビズムと岡本太郎の太陽の塔です!

しかも、太陽の塔を見てきたというではありませんか!

私も岡本太郎が好きで、愛読書の

『孤独を抱いて生きろ』はアサヒ薬局のライブラリーに置いていますが、彼のアトリエを訪ねた時の、興奮を思い出し、しばし、芸術談議に花を咲かせました。

 

 

『愛』をモチーフにした、この作品は、彼いわく、愛をイメージした「優しい」と「涼しい」が混じりあった色。

はっとする言葉です。

二人と話していると感じる、瑞々しい感性と、気品、純粋さ、気高さはなんでしょう?

『障害』という言葉は、彼らには似合わない。そんな枠には入らない、『個』としての、

ぴかぴか光る尊厳を感じるのです。

 

 

そうそう、私がうろうろしていると、さっと手を引っ張って、必要なところへ連れて行ってくれるお世話好きの松尾さちさんのことを話しましょう。

 

ユーモラスで、キュート、色々なものに変身する彼女の周りは笑いが絶えません。

今日はおばあちゃんに変身していたので、おばあちゃんのように腰をさすりながら、楽しい話を聞かせてくださいます。

さちさんのお母さんが考えだしたスタンプという手段で、作品に色彩が溢れてゆきます。

お母さんと漫才のような掛け合いをしながら、埋められてゆく画面。

この赤いスタンプは、乾電池の端っこです。

 

さちさんのお母さん、ハートアート倶楽部の代表をなさっていらっしゃる松尾礼子さんは、しっかりと大地に足をつけた、熱い愛情をいっぱいに体に湛えた素晴らしい方です。

 

さちさんは、産まれてから、すぐに集中治療室に入り、沢山の手術を超え、やっと退院でき、お母さんの元へ帰ることができたのは、もう三歳も近くのことでした。

遠い聖マリア病院まで毎日通う日々、自分の子どもの体にメスを入れる、手術の繰り返し。

 

もう何度も死ぬかもしれないと言われた命を、必死に守り、退院してきたさちさんは、言葉も話せず、歩くこともできず、ごはんも食べることのできない、重度の障害者でした。

胃に穴を開けて、栄養を送る小さなさちさんを、自転車の籠に入れ、外を周りながら、

「さち、あれがそらだよ。これが風だよ。」

と語り続けた松尾さん。

 

それから、言語訓練やリハビリを続け、今やっと、こうして明るくユーモラスに話すことのできるさちさんになったのです。

 

さちさんのお腹には涙の勲章と呼ばれる無数の手術の傷跡。こうして笑っていることが、奇跡のようで、

ぎゅーと抱きしめたくなるのでしたが、そこは感覚過敏のあるさちさん、しゅるりとユーモラスに逃げられました笑。

(感覚過敏のことも社会に認知されるといいと思います)

 

 

松尾さんが、「命さえあってくれたら、どうにかなるのよ」

と真剣な瞳で言われました。それは、障害と付き合い始めたお母さんたちの

涙への、重くて深い、本気の返答だったと思います。

 

ハートアート倶楽部のどの家族も蓋を開ければ色々、それこそ耐えられないような様々なことがあります。

10歳まで健常者だった息子を襲った痙攣と、急に支援学校へ行くことになったこと。

 

子どもを抱える親の体に襲う病気。

 

いつまで、この子を見ることができるだろうか。そんな不安。

 

でも、その悲しみ、辛さゆえに、ここには、確固とした『意志』がありました。

 

互いに支え合い、笑い合い、気遣い合う仲間たち。

 

障害者と一くくりにされそうな、子どもたちの「個性」と「人間性」を、徹底的に大事にすること。

 

本人の自由な意思がないと、そこには何も意味がないと言い切るお母さん達の強い意志の力。

 

だからこそ、ここにいる子どもたちは、自信を持って、笑うことができ、

 

自分のことを大事にすることができるのだと強く感じました。

 

今日、この会に参加させていただいて、私は、ものすごく多くのことを学んだ気がしました。

 

アサヒ薬局に飾られたハートアート倶楽部の鳥たちを見て、障害を持った小さな少年とお母さんが、

「私たちもがんばらなくちゃね。」

と言って帰られてゆかれます。

 

手を繋いだ後姿を見送りながら、間接的にでも、誰かが誰かを、励まし支え合う、そういう力を想いました。

 

ハートアート倶楽部の素敵なメンバーお母さんたちに、心から感謝しています。

 

そして、このハートアート倶楽部の皆様が、展覧会を開かれます。

8月28日から9月2日まで、佐賀県庁です。

ぜひ、見に行って、とっても素敵な彼らの絵を実際に見てみてください。

 

そして、むくむくと膨らむ、柔らかで気高い心をいっぱい浴びてみてください。

 

いつの間にか胸がいっぱいになり、心から笑ってしまうのです。

 

アサヒ薬局でも11月にワークショップを開いてくださいます。

 

お美しいお母さま方と素敵なメンバーに逢いに来てください。

 

そして色々なことを語ってみましょう。